ラテン語の数詞とは、ラテン語で数を指し示す品詞のこと。おおもとを遡ればインド・ヨーロッパ祖語に起源があり、ラテン語の数詞のうちでも基数詞(cardinal numbers)は現代のロマンス系言語にも広範囲に受け継がれている。古代ローマ、並びに、中世期ヨーロッパでは、ローマ数字(I, II, III等)で表記されるのが一般的だった。

数詞の種類

基数詞

基数詞(cardinal numerals)は、数を数えるときに用いる数詞のこと(1, 2, 3…)。ūnus, duo, trēs、並びに、100台の数詞、ducentī, trecentī, quadringentīなどは形容詞的に用いられ、性と格に一致した格変化をする。mīlle (1000)は単数では格変化しないが、複数(mīlia)では格変化し、組み合わせる名詞は属格で表される。例:mīlia hostium(「数千もの敵」、hostium「敵」が複数属格)、quattuor mīlium(「4000の」、mīlium「千」が複数属格)、cum tribus mīlibus equitum(「3千人の騎兵とともに」、equitum「騎兵」が複数属格)。

2桁の数詞で、接続詞のet(「と」)は省略可能。例:vīgintī ūnus (21), centum ūnus (101)。etは、3語以上の数詞から成る数字では使用されない。例:centum trīgintā quattuor (134)。21から99までの数詞では、10の位と1の位を入れ替えることも可能。例:ūnus et vīgintī (21。文字通りには「1と20」)。1の位が8と9になるときは、1つ繰り上がった10の位からの引き算で表すのが一般的である。例:duodētrīgintā (28。文字通りには「30引く2」), ūndēquadrāgintā (39。文字通りには「40引く1」)。数詞の語順は名詞に対して前置・後置のどちらも可能である。

  • regnāvit Ancus annōs quattuor et vīgintī
「アンクスは24年間、国を統治した」(quattuor et vīgintī annōsの語順も可能)

序数詞

序数詞(ordinal numerals)は順番を表すのに用いる数詞のこと。全ての序数詞は第1・第2格変化の形容詞と同じ格変化をする。2語の序数詞(13より上の数)を格変化するには、双方の語を性・数・格に一致して変化させる。

  • prīmus:第1の、最初の
  • secundus:第2の、2番目の
  • tertius:第3の、3番目の
  • vīcēsimus:第20の、20番目の
  • diē septimō pervēnit
「彼は7日目に到着した」(septimōは男性名詞diēsの単数奪格形に一致している)

序数詞から派生したものに、次の形容詞群がある。

prīmārius(「第一級の」「優秀な」)、secundārius(「二級の、二流の」)、tertiārius(「3番目に属する」「3番目のものを含んだ」)、quārtārius(「4分の1」「4番目の部分」)、quīntārius(「5つの部分を含んだ」、分数の「6分の5」)、sextārius(計量単位に用いられて「6分の1単位」)など。

絶対複数名詞の数詞

ラテン語には、語形は複数だが意味は単数、という名詞グループがある。これを「絶対複数名詞」(plurālia tantum)と呼ぶ。例:litterae「(一通の)手紙」、castra「(一つの)宿営」、catēnae「(ひとつながりの)鎖」、vestīmenta「(一着の)服」、hibernae「(一つの)冬の宿営」、nūptiae「挙式」、quadrīgae「(古代ローマの一両の)二輪戦車」。こうした名詞を数えるときには、通常の基数詞ではなく、特殊な形容詞(ūnī, bīnī, trīnī, quadrīnī, quīnī, sēnī…)を用いる。実例は次の通り。ūnae litterae「一通の手紙」、trīnae litterae「三通の手紙」、quīna castra「五つの宿営地」。

1, 3, 4、及び、それを含む数詞(21,31,41など)を除いて、絶対複数名詞の数詞は次節の「分配の数詞(distributive numerals)」に一致する。

使用例:

  • non dīcimus bīga ūna, quadrīgae duae, nūptiae trēs, sed prō eō ūnae bīgae, bīnae quadrīgae, trīnae nūptiae (Varro)
「私たちは、1台の馬2頭立て戦車(one two-horse chariot)をuna bigaとは言わず、2台の馬4頭立て戦車(two four-horse chariots)をduae quadrigaeとは言わず、3度の挙式(three weddings)をtres nuptiaeとは言わず、それぞれunae bigae, binae quadrigae, trinae nuptiaeと言う」
  • Tullia mea vēnit ad mē ... litterāsque reddidit trīnās (Cicero)
「私の娘トゥリアが私のところにやってきた...そして、3通の手紙を手渡した」
  • Octāvius quīnīs castrīs oppidum circumdedit (Caesar)
「オクタヴィウスは町を五つの宿営地で包囲した」

分配の数詞

前節の「絶対複数名詞の数詞」で言及したように、絶対複数名詞用の数詞と似ているが、1, 3, 4の呼び方が異なる数詞がある。これは「分配の数詞」(distributive numerals)で、singulī, bīnī, ternī, quaternī, quīnī, sēnī...となり、意味は「それぞれ一つずつ」、「それぞれ二つずつ」(また、それぞれ一対ずつ)のようになる。

例:

  • ibī turrīs cum ternīs tabulātīs ērigēbat (Julius Caesar)
「彼は、三階建て構造の塔をそこで次々に建て始めた」(建てた塔は全て三階建て)
  • bīnī senātōrēs singulīs cohortibus praepositī (Livy)
「各歩兵隊には、それぞれに二人の元老院議員が置かれた」(歩兵隊それぞれに二人ずつの元老院議員を配置)

13から19までは、名詞との順序を入れ替え可能。例:dēnī ternī、または、ternī dēnī(13個ずつ)。singulīは常に複数形となる(古典ラテン語期)。

  • lēgātī ternī in Āfricam ... et in Numidiam missī (Livy)
「3人ずつの大使がアフリカとヌミディアへそれぞれ派遣された」
  • in singulōs equitēs ... nummōs quīnōs vīcēnōs dedērunt (Livy)
「各騎兵一人ずつに、彼らは25のコインを与えた」

「分配の数詞」から派生したのが次の形容詞群である。singulārius「独特・特有な」「並外れた」、bīnārius「二つから成る」、ternārius「三つから成る」など。

  • exhērēdāta ab octōgēnāriō patre
「80歳の父から勘当された(相続人廃棄にされた)」

頻度の数詞(副詞的用法)

「頻度の数詞(副詞的用法)」(adverbial numerals)は頻度を表す副詞である。副詞なので格変化はしない。ある物事が何度起きるかを表す。例:semel「一度」、bis「二度」、ter「三度」、quater「四度」など。

語尾の-iēnsは-iēsの綴りも可能。例:quinquiēs, sexiēs...

  • equidem deciēs dīxī
「私はそれをすでに10回言った」

倍数の数詞

「倍数の数詞」(multiplicative numerals)は形容詞で、格変化がある。例:simplex「1倍(等倍)の」、duplex「2倍の」、 triplex「3倍の」、quadruplex「4倍の」など。

活用タイプは第3格変化の形容詞と同じになる。

  • [Caesar] triplicem aciem instruxit (Caesar)
「カエサルは軍隊を3列に整列させた」
  • tabellās duplicēs tenentem (Suetonius)
「2枚重ねの1対の平板(掲示板)を手に持って」

表の全ての数が古典作品の実例で確認されているわけではないが、ここでは一覧のため全て掲載した。

この数詞から次の副詞群が派生した。例:simpliciter「単純に、率直に」、dupliciter「二重に、両義的に、曖昧に」、tripliciter「異なる三つの方法で」など。次の動詞群も同様。例:duplicāre「二倍・二重にする」、triplicāre「三倍・三重にする」、quadruplicāre「四倍にする」など。

比例の数詞

「比例(割合)の数詞(proportional numerals)」は、どのくらい大きくなったか、どのくらい多くなったかを表す。例:simplus「単一の、一重の」、duplus「二倍大きい」、triplus「三倍大きい」、quadruplus「四倍大きい」など。

しばしば名詞としても用いられる。例:simplum「等倍の総計」、duplum「二倍の金額」など。

  • duplam pecūniam in thēsaurōs repōnī
「2倍の額の金銭を宝物庫に保管しなさい」

分割の数詞

「分割の数詞」(partitives)は格変化する形容詞である。例:singulārius「一つの部分から成る」「単一の」、bīnārius「二つの部分から成る」、ternārius「三つの部分から成る」、quaternārius「四つの部分から成る」など。

時に特殊な意味を持つことがある。例えば、短長格(iambus)の韻文で「短長3歩格(6歩格)」(sēnārius)とは、短長6歩格の一種で、通常、口語のローマ喜劇で用いられた。他に、septēnāriusやoctōnāriusと呼ばれる歩格もある。

dēnārius(1デナリウス)は10アス(後に16アス)に相当する銀貨1枚のことを指した。金貨のdēnāriusも存在し、1デナリウスの銀貨25枚分に相当した。銀貨のデナリウスは新約聖書にも日当の支払いの文脈で登場する。

数詞の言語学的な詳細

数詞

unus

数詞のūnusは古ラテン語(Old Latin)のoinos(「一」)に遡り、同一の語源を持つものには、古アイルランド語(Old Irish) のóen(「一」)、ゴート語(Gothic)のains(「一」)、古代ギリシャ語のοἴνη (oínē)(「さいころの1・エースの目」)、古教会スラブ語(Old Church Slavonic)のinorogŭ(「一角獣」)の前半部がある。これらはインド・ヨーロッパ祖語の*Hoi̯-no-sに行き着く。属格のūnīus, ūnĭus、与格のūnīは代名詞の格変化形(hujus, illiusなど)と同じであり、その他の語形(女性属格のūnaeなども)は第1・第2格変化の形容詞に一致する。主格と対格の語形はロマンス系言語の数詞として受け継がれていった。ロマンス系言語の不定冠詞は、ラテン語の数詞ūnusの格変化形から二次的に獲得された機能である(ラテン語には不定冠詞は存在しなかったため)。不定冠詞の例:古フランス語・オクシタン語のuns, une, un、イタリア語のun, una、スペイン語のuno, una, ポルトガル語のum, uma, ルーマニア語のun, oなど。

duo

男性主格と対格のdŭŏは古ラテン語のdŭō(「二」)に遡り、同一の語源を持つものには、古ウェールズ語(Old Welsh)のdou(「二」)、ギリシャ語のδύω (dýō)(「二」)、サンスクリット語のदुवा (duvā)(「二」)、古教会スラブ語のdŭva(「二」)がある。これらはインド・ヨーロッパ祖語の*duu̯o-h1、もしくは、リンデマンの説で単音節の*du̯o-h1に行き着く。後者はサンスクリット語のद्वा (dvā)(「二」)に受け継がれ、ゴート語ではやや変化してtwai(「二」)、ドイツ語のzwei(「二」)などとなった。女性形のdŭaeは祖形の*duu̯ah2-ih1を示唆している。複数対格のdŭōs(男性)、dŭās(女性)、属格のdŭom、古典ラテン語期の属格dŭōrum(男性・中性)、dŭārum(女性)、与格・奪格のdŭōbus(男性・中性)、dŭābus(女性)はラテン語特有の語形で、名詞の格変化パターンから作成された語形である。duoは数詞で使われるときには別の格として使われることもある。例:duo et viginti(22)、duodetriginta(28)。

男性複数対格のduōsからは、ロマンス系言語で「二」を表す語が生まれていった。スペイン語・カタルーニャ語・オクシタン語のdos、ポルトガル語のdois、フランス語のdeux、ロマンシュ語のduos, dusなど。イタリア語のdueは女性複数主格のduaeを受け継いだか、女性複数対格のduasから導かれたようである。

tres

男性・女性の主格trēsはゴート語のþreis(「三」)、ギリシャ語のτρεῖς (treîs)(「三」)、サンスクリット語のSanskrit त्रयः (trayaḥ)(「三」)と同一の語源を持ち、これらはインド・ヨーロッパ祖語の*trei̯-esに遡る。元々ラテン語に存在した対格の語形のtrīsは、ウンブリア語(Umbrian)のtrif、ゴート語のþrins、古アイルランド語のtrí、ギリシャ語のτρίνς (tríns)、インド・ヨーロッパ祖語の*tri-nsの系統であったが、前古典ラテン語期に駆逐された。中性のtriaはウンブリア語のtriia、ギリシャ語のτρία (tría)に相当する。属格のtriumはインド・ヨーロッパ祖語の*trii̯-omの直系の系譜に連なっており、これはギリシャ語のτριῶν (triôn)が長母音の-ōnを持つのとは異なっている(ギリシャ語のこの語形は第2格変化の-o-omに由来する)。与格・奪格のtribusはウンブリア語のtris(祖形*trifos)とともにインド・ヨーロッパ祖語の*tri-bʰosを保存している。ロマンス系言語が受け継いだのはラテン語の無変化形のtrēsのみであり、スペイン語・カタルーニャ語・オクシタン語のtres、ポルトガル語のtrês、フランス語のtrois、ロマンシュ語のtrais, treis、ルーマニア語のtreiなどである。

quattuor

quattuorに完全に対応する語形は他の言語には見いだせない。オスク語のpetora(「四」)、ギリシャ語のτέσσαρες (téssares)(「四」)、古アイルランド語のcethair(「四」)、ゴート語のfidwôr(「四」)、リトアニア語のketurì(「四」)、古教会スラブ語のčetyre(「四」)はインド・ヨーロッパ祖語の*kʷetu̯or-を示唆しており、ラテン語では*quetuorとなっていたはずである。母音の-a-はゼログレードの祖形、*kʷtu̯or-への挿入音であると説明されている。二重子音の-tt-は、-u-音が半母音と完全な母音の間で揺れる不安定な性質を持つため、それを補うためである、とされている。後期古典ラテン語期の語形はquattorとなり、-u-音は脱落した。ロマンス系言語ではさらに進んで、第2音節が語中音喪失(syncope)となり、後に、語尾に母音が補完的に追加された。スペイン語のcuatro、ポルトガル語のquatro、イタリア語のquattro、フランス語・オクシタン語・カタルーニャ語のquatre、ルーマニア語のpatruなど。

quinque

quīnqueと同一の語源を持つものには、古アイルランド語のcoíc(「五」)、ギリシャ語のπέντε (pénte)(「五」)、サンスクリット語のपञ्च (pañca)(「五」)があり、いずれもインド・ヨーロッパ祖語の*pénkʷeに行き着く。長母音の-ī-は序数詞のquīntus(「五番目の」)から移植されたものであるとされる。quīntusから遡れば、<*quiŋxtos <*kʷuiŋkʷtos <*kʷeŋkʷ-to-sとなるはずである。母音の前の*p-が次音節の*-kʷ-へ同化する現象は、イタリック諸語とケルト諸語に共通の特徴である。

脚注

関連項目

  • ラテン語の動詞

外部リンク

  • Latin cardinal numerals (wiktionary英語版)

CALL語学教材 21 数詞

こういうのが欲しかった!パッと一目で分かるラテン語動詞活用表一覧 ラミネート加工 Grammatica latino

ラテン語さんさんの人気画像 ついふぁん!

【ラテン語に入門しよう!】ラテン語って何? YouTube

ラテン語で喋ってみた YouTube